【インプラント症例紹介(70代・男性)】即時過重、オールオン4よりオールオン6

今回は70代男性の方の症例をご紹介します。

この方は当院にお見えになった時に、かなり悪くなった歯が数本ありました。かなり虫歯が酷くなり、歯槽膿漏も酷くなっていてグラグラの歯ばかりでした。虫歯で崩壊したような歯ばかりだったので、まったく噛めないということでお見えになりました。

上は入れ歯を元々お使いでしたので、総入れ歯という形を選んで、下の歯にインプラント治療をしていく方針で、治療計画を患者さんと話し合って決定しました。この方は当時60代で、とにかく早く噛めるようになりたいというご希望でしたので、即時荷重インプラントという治療を行いました。悪い歯を手術の日に抜いて、手術の中でインプラントを埋入して、型取りをして、その日のうちに仮歯までを付けるという治療を即時荷重インプラントといいます。

即時荷重インプラントで治療された方は、その日1日で劇的に変わります。朝来られた時と当院を出ていく帰りの時と、お口の中が激変した状態でお帰りいただきます。その日から噛めるようになり、今まで尖っていたり、歯槽膿漏でグラグラしていた歯がまったく無くなるわけですから、喜びはすごく大きいです。この方は治療が終わって14年ぐらい経っている患者さんですが、その後も幸い良い状態で保っています。お見えになった時に、苦しみや悲しい表情をされていたことを覚えていますが、当時と今では表情がまったく違います。そういう患者さんの喜びを目の当たりにできるのは、我々歯医者の喜びの1つですし、役に立てて良かったなと思います。

-最近、オールオン4という言葉をよく聞きます。この方は即時荷重でその日に噛めるようになりましたが、オールオン4ではなく6本のインプラント埋入にしたのはなぜですか?

長い人生を考えると、何があるかわかりません。私たちも何千人という患者さんを治療してきましたが、中には交通事故に遭って顎の骨を折られて、顎の中に入っていたインプラントがダメになった方もいらっしゃいます。こういう交通事故は避けられないことだと思います。これから10年・20年生きていく中で、人間何があるかわかりません。最低限4本あれば十分なことは科学が証明しています。しかし、もし患者さんの埋入する顎の骨に余裕があったならば、1本程度多めにインプラントを埋入していた方が良いと、事故に遭われた患者さんを経験してからは余計にそう思います。費用はなるべく4本の場合と変わらない形にしてあげたいと考えていますが、もし場所に余裕があるならば、1~2本多めにインプラントを埋入しておく方が、10年後・20年後のことを考えると患者さんがより安心なのではないかと私は思っています。当然当院の経済的にはマイナスで、私たちが出す費用の負担が大きくなります。院長には負担をかけて申し訳なく思っています。しかし、10年後・20年後に患者さんに喜んでいただける結果が出るならば、それで良いのではないかと思います。

インプラントが4本埋入してあれば十分噛めることは、科学が証明していますから間違いありません。しかし、オールオン4の4は、最低限の4本なんです。4本でも大丈夫なところに6本埋入しておけば、より安心できます。患者さんのことを思うと、何かあった時のことやより安全なことを考えると、1本なり2本なり多い方が安心ではないかと私は思います。もし4本しか埋入していなくて、そのうち1本に何かあったら、3本ではダメになってしまいます。費用は4本埋入する場合と同じにしてあげたとしても、私の気持ちの上では、プラス1本程度余裕をもって治療してあげたいと思っています。

これから先患者さんと長いお付き合いをしていくことになるわけですから、患者さんが残念がる顔は見たくありません。交通事故に遭ったその患者さんに対しては、できるだけのことをしておいてあげたかったという気持ちがあります。私たちとしては患者さんに長く良い状態を続けてもらいたいと考えています。そのためには、院長には非常に申し訳ないですが、4本でいいところをあえて多めに埋入して、より長期的に安心な状態を作るようにしています。それは私のこだわりです。

インプラント治療も科学です。建物建築の場合でも、柱が多い方が強いということは当たり前のことだと皆さん理解していると思います。インプラント治療もこれと同じです。人工歯根というのは柱ですから、柱が多いに越したことはありません。歯医者さんの視点では、4本の方が簡単で、技術的にもラクかもしれません。しかし、長い目で患者さんの人生を考えると、私が苦労してでも、我々のコスト負担が大きくなったとしても、患者さんにとってより良いことをしてあげたい。院長には申し訳ないですが、そこはこだわっています。

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