【インプラント症例紹介(60代・男性)】他院で勧められたオールオン4を避けた理由

今回は60代男性の方の症例をご紹介します。
今から7年前(2015年)頃に当院にお見えになった患者さんです。

この患者さんのことは今でもすごく覚えています。ある病院でオールオン4という治療を勧められたそうです。きれいな歯を全部抜くという治療を勧められたということで当院にお見えになりました。噛む力が強い方でしたので、奥歯の方はバリバリに割れていました。しかしそれでも前歯はしっかりしていて、すごく骨植の良い状態でした。虫歯は少しありましたが、とても抜くような歯ではなく、抜くのも大変なぐらいしっかりした状態の歯でした。それをなぜ全部抜いてオールオン4と治療にするのかと、本当に疑問の方でした。

私たちが治療して、治療結果を今見て思いますが、おそらくオールオン4では、この方は失敗していらっしゃったと思います。なぜかというと、噛む力がすごく強いからです。4本のインプラントで本当に大丈夫かなと思います。論文的には、10〜12本ぐらいの歯を作るのであれば4本のインプラントで十分と言われています。しかしこの方は、果たして4本で持ったかなというのは今でも思います。いろんなことを患者さんとお話しして、できるだけ多く本数を入れて支えてあげようという方針になりました。

現在72歳ですが、今でも本当に噛む力が強い方です。顎の筋肉も顎の骨も発達していて、触ると顎の骨が横に少し膨らんでいるほどです。例えばお相撲さんのモンゴル出身の朝青龍は、顎のあたりが少し膨らんでいらっしゃいますよね。そういう方は噛む力がすごく強いです。例えば、足も歩かないと弱っていくのと同じで、歯も噛まないと周りの筋肉も衰えますし、骨も少し痩せていく方がいらっしゃいます。逆に、噛む力がすごく強い方は筋肉も骨も発達してきます。ですから顎の横が少し膨らんだような形になります。

-他所の病院ではオールオン4を上下勧められたということで、抜かなくても良い前歯も全部抜いて、上も下も4本で支えましょうという話だったとおっしゃっていました。しかし当院では上8本・下8本埋入しています。奥歯だけなのに、歯の本数分すべてのインプラントが、しかもこれだけ深く長いインプラントが埋入してあります。このレントゲンを見たら絶対大丈夫という感じがしますね。

噛む力の強い方は、お口が開かない方が多いです。スタッフも奥の方まで手を入れるのが難しいと言っていました。

-あれだけしか口が開かないのに、よくこんなに深くて長いインプラントが埋入できましたね。

手術の時に患者さんは寝ていらっしゃいますが、お口を開けて頑張っていただきました。この方はこだわって奥の方まで本数を入れてあげる必要があると私は思いました。本当に咬合力の強い方なので、柱が多い方が良いんです。建物建築と同じです。最初何年かのことではなく、私が考えたのは10年後・15年後・20年後です。そういうことを考えると、本数が多い、これだけ深く、できるだけ長いインプラントを埋入する方が有利だと思います。必要ないと言う先生もいらっしゃるかもしれませんが、15年後・20年後のことを考えると、より患者さんも安心だと思います。私たちも患者さんと一緒に喜んでいける治療が望みです。

下の顎は、8番の親知らずまで作るぐらいの形でインプラント埋入しています。奥の方は技術的に補綴は難しいだろうということで、結局8番の歯は作っていません。予備的に埋入している形になっていますが、将来もし何かあった時にそこを使うことができます。

-歯を作るときも大変でしたが、口が開かないのによくこんなところに深いインプラントを埋入したなと思います。しかも、16本すべてを1日で全部埋入していますよね?

なるべく手術の回数を少なくしてあげたいということを皆さんに考えています。インプラント治療の1つの大きな欠点は、手術をしなくてはいけないということです。過去何千人と、30年インプラント治療をしてきましたが、手術が好きですという方は1人もいらっしゃいませんでした。1回でできるものは、できるだけ1回でしてあげたいといつも思っています。

他の病院で、ご自分のきれいな歯を、しっかりと骨植の良い歯を全部抜歯してオールオン4しましょうと言われたそうですが、このような結果になって良かったと思います。もちろん、オールオン4という治療法がダメだとは思いません。患者さんにとっては合う方もいらっしゃいます。しかし、これだけきれいな問題のない歯を抜くことが、果たして医療なのかなと思うんです。ダメな残せない歯は抜かないと仕方ありません。しかしこの方のように噛む力がすごく強くて、それに耐え得るような糸切り歯がしっかりあって、それを全部抜歯するというのは、行き過ぎの治療ではないかと当時も思いました。患者さんにも十分お話しして、残せる歯は残す治療の方針になりました。

歯医者は全部抜いた方が埋入しやすくなりますから、ラクに・簡単になります。しかし、歯医者がラクになるとしても、私たちはそういう治療はしたくないと思います。もしかすると前の歯医者さんも、口が開かないのを見て、抜歯しないと自分の治療が難しいと判断なさったのかもしれません。ですが、そこは私たちが頑張って治療してあげる部分ではないかなと思います。口が開きにくくても院長がきれいに治療して、自分の歯を全部残してくださっています。虫歯の治療もきれいにしてくれています。患者さんのご希望できれいな歯を被せてあげています。奥歯でも前歯でも、残せる歯は残してあげないといけないと思います。患者さんの快適さが違うと思います。

本当に噛む力が強い方でしたが、これだけインプラントの長さがあれば安心だと思います。
治療後まだ7年しか経っていませんが、この先10年・15年と安心して噛んでいただけると思います。

一覧へ戻る