【インプラント症例紹介(60代・女性)】骨移植をした上で、力学的条件を考慮した治療計画

今回は60代女性の方の症例をご紹介します。

-この方のインプラントを埋入する手術をする時に、先生が気にしたことを教えてください。

右下の奥のインプラントの埋入について、ここは一番後ろの歯で、噛む力がかかる場所です。ですから、できるだけ歯軸に合わせて噛む力に合わせること、噛む方向に逆らわない・噛むのに一番良い位置に人工歯根(土台)を入れたいと考えました。

しかし、この患者さんの場合は手前の歯の根っこの部分が膨らんでいました。そのため、力学的に一番良い位置にまっすぐ入れようとすると、インプラントが根っこに当たってしまうんです。こういう考慮がすごく大事です。インプラントはうまくいっても、その犠牲として手前のご自分の歯がダメになったということが起きてしまったらまったく意味がありません。ですから、ご自分の歯の根っこの形をきちんと診断して、それを避けてかつ力学的にも良い位置を探す必要がありました。この方の手術では、その点に苦労しました。

手術をする私の立場としては、患者さんに長く歯を使っていただきたいです。そのために、力学的に噛む力が十分に逃げる・噛む力を十分支えられる位置にインプラントを埋入したいと考えました。埋入する位置の選定には苦労しました。事前にいろんな考慮をして、位置を選定しました。そして計画通りに、きちっと埋入することができた患者さんです。

上顎の左の上の方は、より力学的な配慮をしました。歯というのは、人間の体の中でも、噛む力がかかる場所です。噛む力は、ご自分の体重ぐらいあると言われています。その噛む力が、左側の歯がなかった部分のインプラントで発揮されますので、より支える必要があります。

インプラント治療では、ご自分の骨の中に人工歯根を埋入します。その人工歯根がより支えられやすい骨の状態の所、条件の良い所にインプラントを埋入したいんです。

この方は3本連結する治療で、レントゲン的には立体的に傾いたような形になりました。特に一番後ろのインプラントは、斜めに入っているように見えますが、カメラの三脚のようにひねられたような位置関係でインプラントを埋入しています。こうすることで、より力が分散して安定することが、物理学の分野ではよく知られています。それを患者さんのお口の骨の中で再現した埋入をしています。

-骨の状態が一番良い所に埋入したいけど、骨のことだけを考えると、例えば埋入する位置が良くないなど、条件がいろいろと複雑だと思います。上に被せる被せ物にも不都合がないようにしないといけません。骨のこと、上に被せる被せ物のこと、そして深さも考える必要があります。こちらは深さも結構深く、しっかりした物が埋入されていますが、なかなか難しいのではないですか?

患者さんのお口の骨の中にインプラントを埋入して、その上に歯を乗せて被せるわけですから、ある程度の高さがないと強度が出ません。上の歯の噛み合わせとの高さを考慮して、距離にすると最低7〜8mmぐらいの被せ物の高さが取れるような位置の深さにインプラントを埋入する必要があります。特に、奥歯は噛む力が発揮される場所なので、こういった考慮が必要だと思います。

奥歯は噛む力がかかるのが大前提です。患者さんは、元通り噛みたいというお考えで奥歯のインプラント治療をご希望されます。ですから、噛む力が十分に発揮されて、かつその噛む力に絶対に負けないようなインプラントの埋入の仕方をする必要があります。

力学的にも、埋入する部分の骨の条件も考えて、事前にCTを見て場所を選んでおいて、実際の手術中に患者さんのお口の中を見て、できるだけCTの画像と同じように再現して埋入していくことになります。

今はガイドというものもありますから、ガイドを利用する場合もあります。この方は15年ぐらい前の患者さんなので、ガイドを使えない時代でしたから私の経験で埋入していました。

-骨がしっかりとあるかどうか、深さを決めること、そして力学的に骨を支えられるか。全部が実現するところに埋入するのは、とても難しいと思います。特に上の方は難しいのではないですか?

人間はみんなそうなんですが、上顎は下顎に比べると骨の質が柔らかくなっています。医学的な言葉で海綿骨と言います。上顎は海面骨の成分が多いので、どうしても骨の質が弱くなります。そのため、噛む力を支える面でも少し不利です。特に上顎のインプラント治療では、そういうことを考えた上での埋入が必要だと思います。

-そのように上顎は特に骨が薄いことが多い中で、これだけ長いインプラントを埋入するために工夫された点もあると思います。その工夫も難しいのではないですか?

この方は、手術をする半年前に骨の移植をしています。15年以上前の患者さんですから、ご自分の骨を中心に移植をして、骨を作りました。我々の患者さんは、他の病院で断られたり、インプラント治療できないと言われてお見えになる方が多いです。普通の歯医者さんで、時々インプラント治療をしていらっしゃるような病院ではとても対処できないような方が当院に集まって来られるのも事実です。そのような場合は、骨を移植して再生させてからインプラントを埋入することが多いです。

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